正確かつ適時の会計処理は、事業計画の修正・予測のみならず銀行融資や税務調査対応その他、経営を進めてゆく上で大変重要なものとなります。
そのように税務・財務・経営管理などに必須となる、会計処理のための基本的な事項を以下に解説いたします。事業経営のための会計と効率的な経理事務
慶應義塾の創設者・福沢諭吉は、帳簿に収支を記入して損益を計算するノウハウである「帳合の法」と、その記帳技術である複式簿記を日本に初めて紹介し、「帳合の法を知らずして商売をする者は、道を知らずして道を歩行する人の如し」と述べ、経営管理(経理)にあたり複式簿記による会計が不可欠であることを示しました。
経営と会計は不可分の関係
目端の利く経営者は、税理士などがまとめた会計数字を、概ね次の目的でこまめに利用し、経営戦略に活用しています。なお、事業年度終了後に作成する決算書は、融資申し込みの際には金融機関へ提出し、また納税額計算に使用するとともに法人税申告では税務署へ提出する重要書類になります。
- 利益が預金残高の増加に適切に反映され、無駄・不審な流出がないか確認
- 前年・前期など期間比較により自社の営業活動の趨勢を読み、テコ入れ等の手を打つ
- 会計数字を資金繰り表に落とし込み、投資資金・納税資金などの調達時期を予測
- 売上債権回収や在庫の回転など、経営資源のバランスに異変が無いかをチェック
効率的な経理事務の方法とは
少ないスタッフでやり繰りしている経営者のかたにとって、バックオフィス業務の効率化は悩みの種であると思います。下記のメリット・デメリットにより、選択すべき方法の判断材料としていただくことができます。
方法1 経理スタッフを雇用する
《メリット》
・経験者を採用できれば、ただちに日常の経理事務から解放される
・確認、指示、連絡その他のコミュニケーションが取りやすい
・経験者採用の場合、給与水準が平均より高くなる(沖縄県平均年収370万円)
(参考:経理事務 – 職業詳細 | 厚労省運営job tag「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」より)
・任せきりにすると不正経理に気づきにくい
・税務申告などの実務、タックスプランニングには疎い場合が多い
方法2 会計・給与計算を税理士等に外注する
《メリット》
・コストの大幅削減が実現できる
・会計と税務申告をワンストップで税理士に任せることで、余計な手配・打ち合わせが不要となる
《デメリット》
・経費精算など銀行口座の出入金の管理は経営者みずからおこなう必要がある
・会計や給与処理に関する税理士など外部からの質問に対し、回答・指示する手間が生じる
・外注は安く済む代わりに、社内にノウハウが蓄積されない
融資を受けやすくする会計戦略
事業資金の融資を受ける際には、日々の会計処理の結果できあがる決算書は必ず提出することとなり、その内容は金融機関の審査部で厳しく精査されます。また、融資実行後においても先月分の試算表をすぐに出すように、銀行の担当者より依頼を受けるケースも多々あります。
ここでは、融資を受けるにあたり、日々の会計処理をどのように行なえばよいか基本的なところをご紹介します。
会計操作の疑念を持たれないようにする
税理士が会計処理に関与して作成した決算書であっても、銀行はその中身を100%信用することは有り得ず、融資にあたり一定の疑念をもって見られます。日々の会計処理では次の点に注意するとよいでしょう。
- 納税額を圧縮する目的の極端な会計を避け、適切な企業会計に沿った会計処理をおこなう
- 売掛金や在庫の長期滞留を避け、早期に処理または滞留の正当な理由を説明できるようにしておく
- 経営者の給与(役員報酬)が生活困難な少額の場合は、利益水増しの疑いを持たれぬよう説明できるようにする(会社の実質的な稼ぐ力は、「最終利益+役員報酬」でみられる)
- 銀行から試算表等の会計資料の提出を依頼されたらすぐに対応する(即応することで、日常のずさんな経理や数字の小細工の疑念を避ける)
会計処理によって融資に有利・不利の違いが出てくる
融資申し込みに際しては決算書提出を求められることは前述しましたが、計上する科目名や計上先の振り分けなど、日ごろの会計処理が融資審査の有利・不利を左右しますので、漫然と行うのではなく、融資にプラスに働く効果的な会計処理を意識することが大切です。
以下にポイントを紹介します。
- 経営者が会社に資金投入をしたときは、返済不要な自己資本とみなしてもらうため、固定負債の欄に「役員借入金」の科目名で、一般的な長期借入金とは分けて会計処理をおこなう
- 売り上げ計上できる収益は、営業外収益に該当する科目は用いず「売上高」の科目で計上し、営業収益力の強さをアピールする
- 会社のお金を経営者に貸し付けする場合は、流動資産に計上し、1年以内に一括返済するか毎月役員報酬から天引き返済し、融資流用の疑念を持たれないようにする
- 提携・取引先に出資し株式を保有する場合は、投機目的の流動資産と勘違いされないように、固定資産として計上する
税務のための会計ルールとは
本来的に会計は各企業が経営分析などのため、会計規則・原則のなかである程度自由に会計処理の方法を選択することが可能です。このような各企業の経営管理目的に行われる会計処理は、管理会計と呼ばれます。
しかし、税務申告の場面では所得税法、法人税法または過去の裁判例などにより会計処理の方法に規制が加えられています。これらの規制に沿った会計処理は、税務会計と呼ばれています。法律に反した処理については、税務調査の際に指摘され何らかの処分につながる可能性があります。
以下に、税務会計のうちいくつかをを紹介いたします。
- 個人事業は原則通りに法定耐用年数で毎期減価償却費を計上、法人は事業年度により計上は任意、条件により全額経費計上も可能(会計上は償却方法を任意選択、税法上は届出・申請が必要)
- 個人事業は交際費の上限が規定されてないが、法人は計上額のうち上限額超過分につき修正を受ける
- 営利法人の借入金につき支払利息ゼロは有り得るが、貸し付ける側のときは税務上適正な受取利息を計上する必要がある
- 経費計上できる法人の役員報酬は、計上額やその変更時期につき税法上一定の制限が設けられている
- 会計上数種類ある棚卸資産の評価方法は、事前に税務署へ届出した方法により行い、変更には申請書提出を要する